「一括か、年金か」——桁違いの決断を、AI1台に任せなかった話
27年間勤めた会社を辞めたおっさんの元に、退職金と企業年金の「受け取り方」を選ぶ通知が届きました。
金額を見て、まず固まりました。今まで扱ったことのない桁の数字です。そして同時に、ある恐怖が頭をよぎりました。受け取り方を間違えると、税金だけで数十万円、下手をすればもっと多く損をするらしい、という話をどこかで聞きかじっていたからです。
インデックス投資を21年やってきて、市場の暴落くらいでは動じなくなったおっさんですが、この通知だけは違いました。「自分の税務知識だけで判断していいものか」という不安が拭えなかったからです。今回は、その不安をAIとどう付き合いながら解消していったか、判断のプロセスをそのまま記録しておきます。
「一時金」か「年金」か、まず選択肢を整理する
退職金や企業年金の受け取り方には、一般的に次の3パターンがあると言われます。
- 一時金(一括受給): まとまった金額を一度に受け取る
- 年金(分割受給): 数年〜十数年に分けて、少しずつ受け取る
- 併用: 一部を一時金で、残りを年金で受け取る
どれを選んでも最終的にもらえる総額はほぼ同じ、という前提で語られがちですが、税金のかかり方がまったく違うという点が引っかかりました。
一時金で受け取ると「退職所得」として扱われ、他の所得とは合算せずに単独で税額を計算する「分離課税」になります。一方、年金として受け取ると「雑所得」として扱われ、その年の他の所得と合算して税額が決まる「総合課税」になります(年金には別枠の控除もありますが、ここでは割愛します)。
同じ金額でも、どちらの箱に入れるかで税金の計算式が変わる。ここまでは調べればわかります。問題は、その先の「自分の実際の数字に当てはめたら、結局どうなるのか」でした。
自分の税務知識だけでは心もとない、そこでChatGPTに相談した
正直に言うと、退職所得控除の計算式は調べればすぐに出てきます。ただ、金額が大きいだけに「計算式の解釈を間違えていないか」「自分のケースへの当てはめ方が合っているか」を、自分ひとりの理解だけで押し切る勇気が出ませんでした。
そこで頼ったのがChatGPTです。会社と企業年金基金からそれぞれ届いた通知書類には、氏名など個人を特定できる情報が記載されています。当然そこは写さず、金額・勤続年数といった数値部分だけを撮影して、ChatGPTのカメラ(写真読み取り)機能で読み込ませました。個人情報を渡さなくても、数字さえあれば試算はできます。
読み込ませた数値をもとに、ChatGPTに退職所得控除の計算・税額の見積もりをしてもらいました。ここまでなら、よくある「AIに相談してみた」の話で終わります。ですが、今回はこの結果をそのまま信じることをしませんでした。
大きなお金だからこそ、1つのAIを鵜呑みにしない
金額が金額だけに、ChatGPT1つの回答を信じて終わらせるのは怖いと思いました。AIは自信満々に間違った計算を返してくることがあります(いわゆるハルシネーション)。生活費レベルの買い物ならまだしも、人生でそう何度もない桁の意思決定を、単一のAIの答えだけに委ねるのはリスクが高すぎます。
そこで、ChatGPTが出した計算根拠と結果を、そのままClaudeとGeminiにも投げ、同じ前提条件で検討させました。3つのAIがそれぞれ独立に計算し、その結果を突き合わせる、というやり方です。
結果として、退職所得控除の計算式の解釈、税額の見積もりとも、3つのAIでほぼ一致しました。もちろん、3つが同じ答えを出したからといって100%正しい保証にはなりません。ただ、少なくとも「計算式そのものを読み違えている」「桁を見間違えている」といった単純ミスの可能性は大きく減らせたはずです。この一致を見て、ようやく「一時金で受け取る」という判断に自分の中で腹落ちできました。
試算結果:想定よりかなり低い負担で済みそうだった
3つのAIの計算がおおむね一致した内容を、あらためて整理するとこうなります。
会社からの退職金と、企業年金の一時金。この2つを合わせた金額が、今回「一時金として受け取るかどうか」を判断する対象になりました。勤続年数は27年です。
退職所得には「退職所得控除」という、勤続年数に応じた非課税枠があります。国税庁のルールでは、勤続20年を超える部分について、「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)」という計算式で控除額が決まります。
おっさんの場合、勤続27年なのでこの計算式に当てはめると、それなりにまとまった金額が非課税枠になる、という試算結果でした。
さらに、退職所得は「(収入 - 控除額)× 1/2」という計算式で、課税対象になる金額そのものが半分に圧縮されます。これは長年勤め上げた人への優遇措置と言われています。
この控除と圧縮を経たうえで実際に税額を計算してみると、収入全体に対して差し引かれる税金はごくわずかな割合にとどまる、という結果になりました。正直、この数字を見たときは驚きました。年金として毎年少しずつ受け取る場合とは税金の計算方法が大きく異なるため、一時金で受け取ることで退職所得控除を活用できる点も、判断材料になりました。
ただし、これはあくまで現時点の試算です。退職金・企業年金はまだ実際に口座へ振り込まれておらず、手取り額として確定したわけではありません。実際の着金額が確認できた段階で、この記事の数字も最終チェックするつもりです。
なお、退職所得は国民健康保険料の算定には含まれないとされています(自治体の公式FAQで確認済み)。おっさんは今回、国保ではなく任意継続を選んだため直接の影響はありませんでしたが、国保に加入する方にとっては無視できないポイントかもしれません。介護保険料の扱いは自治体によって運用が異なる可能性があるため、お住まいの自治体で最終確認をおすすめします。
もうひとつの理由:国債利回り相当なら、自分で運用した方がいい
税金の話とは別に、一時金を選んだ理由がもうひとつあります。こちらはAIの試算とは関係のない、投資家としての判断です。
人事担当者からの説明によると、一時金として今受け取る金額は、60歳時点で年金として受け取った場合の総額より低くなるとのことでした。その差額について尋ねたところ、「実質的に国債の金利相当」という説明を受けました。つまり、年金として据え置く選択肢は、いわば会社に国債並みの利回りで運用してもらうようなものだと理解しました。
これまで21年間インデックス投資を続けてきた身としては、その説明を聞いて考えたのはシンプルなことです。国債利回り相当で寝かせておくくらいなら、その差額分も含めて一時金で受け取り、自分でS&P500やオルカン(全世界株式インデックスファンド)などに回した方が、期待できるリターンは高いのではないか、という判断です。もちろん、インデックス投資は元本保証ではなく、国債のように利回りが確定しているわけでもありません。それでも、長期の資産形成を実践してきた経験から、「据え置いて国債相当の利回りを待つ」より「引き出して自分で運用する」方を選ぶのは、以前の連載でも書いてきたおっさんの投資スタンスと一貫しています。
税金面での有利さに加えて、この「差額を自分で運用した方が期待リターンは高い」という考え方も、一時金を選んだ理由のひとつになっています。
まとめ:AIは「代わりに決めてくれるもの」ではなかった
今回の一連のプロセスで実感したのは、AIは「答えを丸ごと渡してくれる存在」ではなく、「自分の判断を検証してくれる壁打ち相手」だということです。
ChatGPTに数字を読み込ませて終わり、ではなく、金額の大きさに見合った慎重さで、Claude・Geminiにも同じ内容を検討させる。3つの見解が一致して、初めて「これなら判断していい」と思えました。個人情報を渡さずに数値だけで試算できたのも、AIとの付き合い方として今後も続けたいやり方です。
税制は年度によって変わりますし、この記事の数字もまだ試算段階です。実際に手続きをする際は、必ずご自身の状況とそのときの最新の制度を確認してください。それでも、大きなお金が動くタイミングだからこそ、AIを「1つの意見」として使い、複数の視点でクロスチェックする。それだけで判断への自信の持ち方が変わる、というのが今回の自由研究の結論です。
⚠️ 投資リスクに関するご注意 投資には元本割れのリスクがあります。本連載は個人の経験に基づく情報提供を目的としており、特定の金融商品への投資を勧誘するものではありません。実際の投資判断はご自身の責任のもと、必要に応じて専門家にご相談ください。